一曲目が終わり、MCに入る。
実は、曲よりもMCのほうが苦手だったりする。
それでも、優弥の訓練を思い出す。
俺はだるそうにマイクに手をかけ、わざと低い声で言う。
「どうも、Fです」
その瞬間、ライブハウスは悲鳴に似た歓声に包まれた。
ヤバい!
ウケてる!!
もっとやらなきゃ。
俺のナルシスト思考がさらに強まる。
俺は目を細めて遠くを見た。
ライブハウスにいる客は、そんなに多くない。
でも、みんなが俺に注目している。
「今日、俺たち初めてなんだよな。
でも、これだけの人が聴いてくれて、マジで嬉しい」
そう言うと、再び悲鳴。
出来る、出来るぞ!
「まずはメンバー紹介。
……忘れんじゃねぇよ」
俺の一語一句に観客は絶叫して。
優弥の言っていることは嘘ではないと悟る。
今、ステージに立っているのは、いつものお馬鹿な蒼ではない。
カリスマの碧だ。