パニックを起こしたあたし。
怖くて怖くて、ひたすら扉を叩く。
蒼、気付いて!
蒼、あたしここにいるよ!
「蒼!!」
あたしの声が、広いホールに響いた。
誰もいないこの広いライブハウスに。
蒼、今頃心配しているかな。
きっと探してるだろうな。
「蒼……」
再び、すがるような声で大好きな蒼を呼んだときだった。
真っ暗なライブハウスの正面のステージがぼんやり明るくなる。
暗い中浮かび上がるマイクに、スピーカーに。
その中で、何かが動きキラリと光った。
人がいる?
あたし、助かった?
そう思ったのも束の間、眩しいスポットがステージに降り注ぐ。
遠いステージの上にはギターを抱えた人がいた。
遠すぎるのと暗いのとで、彼の顔が分からない。
だけど、その雰囲気で分かった。
ほわっとしていて、優しくて、だけど凛としていて。
彼はFの碧ではない。
あたしの彼氏、蒼だ。
なに?
なんでそんなところにいるの?



