「戸崎さんは、どうして奥さんが好きなんです?」
そう聞くと、少し表情が緩む。
その優しい瞳は宙を見つめ、懐かしむように口を開いた。
「俺さ、唯ちゃんと会ったとき、すごく疲れていたんだ」
俺は黙って話を促す。
「今となってはだけど、昔は色々受け入れられなくって。
人と話すとき、カッコつけないといけないのかな。
スマートな行いしないといけないのかな。
女慣れしないといけないのかな、とか。
俺自身と、Fのギャップに戸惑ってたんだ」
初めて聞く、戸崎さんの昔の話。
初めて聞く、戸崎さんの心の内。
俺は戸崎さんに分からないように息を呑んだ。
「俺には正直しんどいんだ。
碧として生きることは。
だけどね、当時はそれを求める人ばっかりだった」



