嵐のように去っていった中山さん。
蒼に口撃する中山さんのいなくなった室内は、少し物寂しかった。
そんな中、蒼を見る。
昔から変わっていない、整った優しい顔。
少しくまが出来てやつれて見えるのは、歳をとったからだけではないだろう。
「蒼、何考えてるの?」
思わず聞いていた。
蒼はきょとんとした顔出あたしを見る。
「中山さんから聞いた。
Fのほうにも力入れるんでしょ?」
蒼のまっすぐな瞳があたしを捉えた。
そして……
ゆっくりとその手が伸びる。
「唯ちゃん」
蒼の手があたしの頬に触れ、ピリッと電流が流れる。
あぁ、やっぱり駄目だ。
あたしはお母さんになるのに、いまだに蒼に狂わされる。
「大丈夫だよ。
唯ちゃんは子供のことだけ考えていて」
その声は優しいが、有無を言わせない強さがあった。