「あれ?碧じゃない?」
ひそひそ声が聞こえる。
不倫報道で完全に顔バレしてしまった蒼は、今や眼鏡をかけていても気付かれるようになってしまった。
せっかく一般人に溶け込んでいたのに。
そんな蒼が気の毒に思える。
「……てことは、あの人が不倫相手?
フツーの人だね」
「妊娠してるの本当じゃん」
違うのに!
蒼は何もしていないのに!
かっとなって言い返そうとしたあたしを、
「唯ちゃん」
蒼は優しく止める。
「大丈夫だから。
唯ちゃんは子供のことだけ考えてればいいから」
蒼はぎゅっとあたしの手を握った。
昔に比べると、いくらか滑らかになったその手。
だけど、硬くて大きなあたしの大好きな手。
その手を握ると安心する。
日本中の人を敵に回しても、あたしは蒼の味方。
やがて、受付番号が表示され、あたしの診察となる。