それから数分後だった。
家の扉が開き、賢一が現れたのは。
「唯!」
あたしを見て叫んだ賢一を、あたしは睨んでいた。
涙で濡れた顔で。
醜さを全面に出して。
「なんで賢一が来るの?
あたしには関係ない!」
「関係あるだろ!お前の夫だろ!!」
いつもはおちゃらけている賢一が、珍しく真剣な顔をしている。
その真顔がなんだか怖くて、あたしは身を引いた。
「蒼とは離婚だよ」
ただの不倫じゃない。
相手は妊娠しているんだから!
「ふざけんな!!」
「ふざけてるのは賢一でしょ?」
もはやあたしの声は、叫び声になっていた。
頭が真っ白で。
賢一さえ敵に思えて。
……だって、そうでしょ?
賢一は蒼の友達。
蒼がいたから、あたしと賢一は繋がっている。
そんな脆い関係だよ。
「あたしは行かない。
蒼には会えない」
会うと、すがってしまうから。
許してしまうから。
子供の養育費を払ってまで、一緒にいたいと思ってしまうから。
「そうやって逃げるのかよ」
賢一は静かに言った。
「本当のこと、知りたくねぇのか?」