完全に甘々モードに入っていたあたしたちを現実に引き戻したのは、
「碧さん」
監督の低い声だった。
蒼は身体を強張らせ、慌ててあたしの身体を離す。
そして、
「よろしくお願いします」
頭を下げた。
どうして蒼がお願いするのか分からない。
条件反射なのかもしれない。
だけど、律儀な蒼はすごいと思ってしまう。
あたしも慌てて頭を下げた。
「碧さん、今日はプライベートのところ、無理言ってすみません。
そして、奥さんまで」
「いえ、隆太のためですから」
蒼は爽やかにそう言う。
そんな蒼はやっぱりすごい。
無理矢理押し付けられたのに、全く怒ったりせず。
むしろ、真摯に監督と向き合っている。
もしかしたら、これが芸能界で生きていく術なのかもしれない。
長年芸能界を離れていた蒼だが、芸能界の世渡り術はしっかり身についているのかもしれない。



