ー蒼sideー
「戸崎。疲れてるな」
先輩の北野さんが、俺に栄養ドリンクを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
俺は受け取り、それを口に含む。
「忙しいのか?最近」
「えぇ、まぁ……色々と」
「Fのことか?」
「!?」
思わずドリンクを吹き出しそうになった。
北野さんは二言目にはFだ。
会社でFの話はしたくないのに。
ただの馬鹿な戸崎でいいのに。
それなのに、彼らは容赦してくれない。
「そういえば、もう艶さんのスタジオ、完成していますよね?」
目を輝かせた中山が言う。
「戸崎。俺たちにも内覧会させろよ。
色々と手伝ってやったんだ」
まずい。
このままだと延々とFの話をされる。
黙らせるには、命令に従うしかない。
そんなわけで、俺は仕方なく北野さんと中山を優弥のスタジオへ案内することになった。
せっかくやる気が出たのに。
予定を前倒ししてレコーディングだって出来そうだったのに。
なのに、完全に出鼻を挫かれた。
俺は心の中でため息をついていた。