振り返ると、いつもみたいにニヤニヤ笑った賢一が立っていて。
「奇遇だな」
なんて言う。
そんな賢一も、昔と全然変わらない。
変わったといえば、体重が増えたくらいだ。
黒髪に、キャップを被り。
Tシャツに短パン。
「あれ?店長、仕事は?」
蒼が聞くと、
「仕事仕事ってうるせぇな!
俺様は今、スランプなんだ」
そう言って顔をしかめた。
賢一でもスランプなんてあるんだ。
昔から、賢一が一番大変な思いをしてきた。
シェフの見習いと、Fとの二刀流。
大学生だった蒼と慎吾とはわけが違う。
それでも、仕事もプライベートもFも難なくこなしてきた賢一。
そんな賢一がスランプなんて、意外だった。



