笹の葉を背にして、二人は並んで歩き出した。

「夏彦、よく一五〇〇年も前の、私との約束、覚えてたね」

「詩織は忘れてたんだろ?」

「昨日思い出したんだからいいでしょ」

 詩織は夏彦の手を揺さぶる。

「ねぇ、今日はきっと天の川、見れるよね?」

「どうだろう」

「見えるよ。見えなきゃ約束を果たせないよ。困るよ、そんなの」

 泣きそうな顔の詩織に、夏彦は一呼吸置いてから口を開く。

「俺はずっと思ってたんだ。もしかしたら、ここは天の川の中なんじゃないかって。」

「え?」

 夏彦の突拍子もない言葉に、詩織の顔は困惑一色になるが、夏彦はそのまま続ける。

「天女が羽衣を落としたのは地上じゃなくて、天の川の中。その羽衣を死ぬはずだった俺たちが掴んだ。だってこんな夢みたいな話があると思うか。詩織を目覚めさせるまでの間の、あの苦悩はけして忘れられないが、でも今となっては俺はどうしても、今までの一五〇〇年が夢の中にいたような気がしてならないんだ。」