「胎児にとって父親がいることは重要でしょうか」

「当たり前じゃない」

「血縁でなければなりませんか」

「え」

「胎児があなたの手を離れるまでに、胎児の父親が見つかる可能性はあります」

「そ、そんなあやふやなものにすがるなんて出来ないわよ!」

「何故でしょう。確定されている未来などは存在しません」

「そんなの屁理屈じゃない」

 一人で育てるなんて無理に決まってる。

 ましてや、いつ現れるかも解らない、出会えるかどうかも解らない存在を信じるなんて出来ない。

「可能性がゼロでないのなら諦める理由はない」

「──っえ!?」

 今までと変わらないトーンで発した言葉のはずなのに、どうしてだか彼女には胸の奥まで響くような声に聞こえた。

 抑揚を示さない声色だからだろうか、それが返って自分との温度差をこれでもかと広げているようで、いつまでも彼の声が耳にこだました。