「いい加減にして! なんで逃げるのよ」

 さすがに大人しくもしていられなくて声を張り上げる。

 青年は、そんな彼女の態度にも柔らかな笑みを湛えていた。

 まさか、この人は私が怒っていることが解らないの?

「胎児にどのような影響を及ぼすのか解りません」

「──え」

 青年の言葉に女性の動きが止まる。

「成人には影響はほぼありません。しかし胎児を対象としたデータはありません」

「なんで──」

 なんで知ってるの?

「初期症状が見られます」

 どうしてそんなことがわかるの?

 まだ三ヶ月にも満たないのよ。誰にも話してないのに、親にだって……。

「母胎は速やかに天候を考慮して安心、安全な場所に──」

「うるさいわね!!」

 カッとなって怒鳴りつけると青年は言葉を切った。

 体を震わせて睨みつけたが、それでも色を変えない彼の表情に喉を詰まらせる。