「一条君、姫子を頼んだよ」 海星君が伊織君から手を離す。 伊織君はそのままあたしを見ることなく、背中を向けて歩き出した。 雨はいつのまにか小雨に変わっていた。 シトシトと振り続ける雨はまるであたしの心の中のよう。 海星君が好き。 それなのに、伊織君を放っておけない。 落ち込んだり嫌なことがあると、背中を丸めて歩く癖がある伊織君。 伊織君の丸くなった背中を見つめていると、急に涙が溢れた。