「ごめん。もうしないよ」
伊織君は目を伏せてあたしと目を合わせようとしない。
「姫子は俺の女だ。よく覚えておけよ」
「分かってる。ただ、姫子に傘を渡しに来ただけ。急に雨が降り出したから。別に邪魔しにきたわけじゃないから」
伊織君はスッとあたしに傘を差し出した。
昔も今みたいに、雨が降ると伊織君が傘を届けてくれた。
小学校の時、ピアノ教室へ行っているときも。
中学の時、部活で遅くなった時も。
急な雨に降られると、伊織君が傘を持ってきてくれた。
そして、二人で一つの傘に入って家に帰ったんだ。
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