「ごめん、海星君……。今は全部を話すことはできないけど……――あたし……――」 そう言いかけた時、こっちに向かって歩いてくる人影に気が付いた。 その人影にハッとして目を見開く。 「伊織君……」 傘を差しながら歩く伊織君はあたしに気付いてピタリとその場に立ち止った。 伊織君の左手には折りたたまれた傘。 もしかして……――。 「やっぱり、あいつか」 海星君はそう言うと、スッとあたしの顔の横の手を引っ込めて伊織君の元へ歩き出した。