伊織君を叩いたのは初めてだった。
もちろん、今まで人を叩いたことなんて一度もない。
自分が叩いたほうなのに、胸が激しく痛み、罪悪感が込み上げる。
「伊織君……ごめん……」
声が震える。
あたしからそっと離れた伊織君に恐る恐る声をかけた時、気付いた。
伊織君は声も出さずに涙を流していた。
「なんで、泣いてるの……?」
「バイバイ、姫子」
無理矢理押し倒したのは伊織君の方なのに、どうしてそんなにつらそうな顔をしているの……?
あたしの問いかけに答えることなく、伊織君はそっと部屋から出て行った。
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