扉から現れたのは、小田さんと佐野くんだった。

(私がここで高橋くんとキスするところを見せて、佐野くんを誤解させて

小田さんと佐野くんがくっつくようにする。

そういう…作戦だよね…)

私は頭の中で考えてる途中で

佐野くんとの思い出を混ぜてしまった。

(黒板を一緒に消してくれたのがはじめで

一緒にそうじして、チョコをくれて

メール送りあって、誕生日も祝ってくれて

体育館で佐野くんのこと色々知って

倉庫に閉じ込められた時も助けに来てくれて

屋上で一緒にごはんを食べて

私のためにたくさん頑張ってくれて…)

「おい、櫻田、何ぼーっとしてんだよ。

早くしねーと…」

高橋くんの声で我に返った。

(そうだ、これは佐野くんのため…

佐野くんを守るため…)

私は高橋くんのネクタイを掴み、くいっと自分の方に引き寄せた。

練習と違うキスに高橋くんは驚いていた。

ふりであることに変わりはないけれど。

極限まで顔を近づけていると、小田さんが口を開いた。

「ねえ、見た?あのふたり

チョコレートひっくり返されてたけど、うまくいったみたいね」

私はつい佐野くんの方を見てしまった。

(あ、目があった…)

けれど彼の目には何も写っていなかった。

彼はそのまま背を向け、フラフラと階段を降りていく。

(…嫌だ、こんなの嫌だ…

やっぱり佐野くんには誤解されたくない

佐野くんには知ってほしい

佐野くんのこと、大好きだって知ってほしい…!)

私は佐野くんのことを追いかけようと、駆け出した。