声をくれた君に



佐野くんの声が震えているような気がした。

(きっと寒いからだ)

私はそう思い込むことにした。

(お願いだから、早く私の前からいなくなって…)

そうじゃないと

そうじゃないと、本当のことを言ってしまいそうになる…

佐野くんが好きだって

一緒にいたいって言ってしまいそうになるから…

「櫻田」

彼はもう一度私の名前を呼んだ。

「ごめん、俺は諦めが悪いから」

そう言って、彼は私のあごを指で持ち上げた。

私には佐野くんと目を合わせる以外、選択肢がなくなってしまう。

(だめ、見透かされる…)

「もう一度答えろ。

あんたは高橋が好きなのか?」

私はなんとか頷いてみせた。

「俺とはもうごはん一緒に食べたくない?」

私はもう一度頷いた。

「俺のこと、嫌いになった?」

なるわけない。

なれるはずがない。

私は溢れ出す涙を抑えられなかった。

「…俺が、泣かせてるのか?」

(そうだよ…

佐野くんが

佐野くんのことが好きすぎて泣いてるんだよ…)

私は大きく頷いてみせた。

佐野くんはすごく傷ついた顔をしてた。

私はぎゅっと唇を噛み締めて佐野くんの手を払いのけた。

”バイバイ”

私はそう唇を動かした。

そして彼に背を向けて屋上を出た。

「バイバイって、なんだよ…」

彼がそう呟く声が聞こえた。