授業がはじまっても、先生は最低だった。
「じゃあ誰に教科書読んでもらおうかなー。
よし、櫻田!
って声が出ないんだった、へへっ」
別にクラスのみんなみたいに私をいじめようとしているのではないのだろう。
ただ授業をおもしろくしたいという単純な考え。
それでも、私が声が出せないことを笑いのネタとして使うなんて許せない。
だからといってここで私が怒れば、クラスのみんなが余計におもしろがるだけ。
私は無表情を貫いた。
愛想笑いよりずっと疲れるような気がした。
授業を聞くのもバカらしく思えてきて、私は教科書を閉じてずっと窓の外を見ていた。
(別にしゃべる声はなくたっていい。
ただ、今は、この空に叫ぶだけの声がほしい…)
退屈な2時間目も終わり、私は再び黒板を消しにいく。
(あの先生、筆圧濃くて消すの大変…)
そんなことを考えていると、隣に気配を感じた。
あわてて横を見ても顔が見えなかったので、私は首を上に傾けた。
佐野くんだ。
(号令させられてるから、黒板も消さなきゃとか思ってるのかな)
私はチョークに持ち替えて、黒板に
『号令以外の仕事はできます』
と、走り書きした。
佐野くんは一瞬その文字をチラッと見たけれど、特に何も気にする様子はなく、すぐにそれを消してしまう。
そして残りの筆圧の濃い文字も、丁寧に消していってくれる。
ふたりで消すのはあっという間だった。
