声をくれた君に



そう思ったとき、私の前の影が動いたのがわかった。

隣から小田さんの声が聞こえた。

「佐野くん!どうしたの?」

いつも佐野くんに使ってる2割増しのトーンだ。

(耳障り…)

そんな言葉が頭をよぎった次の瞬間

「きゃっ」

小田さんの短い悲鳴が聞こえた。

私は驚いて小田さんの方を見た。

「悪い、手がすべった」

佐野くんの手には、ひっくり返った小田さんの弁当箱があった。

(え…)

「佐野くん、なんでこんなことするの…?」

「手がすべったんだ」

「そんなわけないじゃない!」

小田さんは完全に取り乱していた。

「あんたも言ってたよな、手がすべったって。

あんたの手はすべって、俺の手はすべらないのか?」

「それは…」

小田さんは何も言えなくなった。

「櫻田、行くぞ」

佐野くんは私の手を取り、立ち上がらせた。

「あ」

彼はもう一度小田さんの方に向き直った。

「手、すべらせて悪かった。

これで拭いといて」

そう言って小田さんにハンカチを手渡した。

「それから、弁当も無駄にして悪かった」

彼はポッケトから千円札を出して、小田さんの机の上に置いた。

「購買でパンとか買って食べて。

行こう」

佐野くんは掴んだ私の手を引いて歩き始めた。

(そうだ、佐野くんは小田さんに意地悪したいわけじゃないんだ。

ただいじめを止めようとしているだけ。

だから最後には絶対優しいんだ…)

私は佐野くんの横顔を見た。

(そういうところも、好きだな)

私は佐野くんにばれないようにそっと微笑みかけた。