声をくれた君に



その日の数学の時間、私は佐野くんからもらった教科書を開いて授業を聞いていた。

(せっかく佐野くんがくれた教科書だもん。

数学はがんばろう…)

そう思ってもなかなかペンが進まない。

「じゃあそこの問題、ノートに解いてくれ」

ある日の授業を思い出した。

先生に前で解くように言われて、自分の力で解いたのに

小田さんのノートを写したとかで嘘つきのレッテルを張られ

自分の得意なことさえ嘘に変えられてしまった。

(そういえばあれから当てられなくなったな…)

そんなことを考えていると、先生に名前を呼ばれた。

「じゃあ櫻田、今やったところ、前で解いてくれ」

(当てられた…

でももう大丈夫。

はじめから嘘つきだって言われるってわかっていれば、期待なんてしなければ

もう何も辛くない…)

私は自分のノートに書いた数式を写した。

もう私は知っている。

(生きていくことは、数式みたいにうまくはいかない)

書き終わると、先生は”正解”と言って、黒板に赤チョークで丸をしてくれた。

そこからは私の予想通りだった。