”だから声なんて私にはいらない”
そう書き上げた手を佐野くんが掴んだ。
「じゃあなんでそんな顔してんの?」
佐野くんは私の顔を覗き込んで、真っ直ぐに私の目を見た。
「このままでいいなんて顔してない。
すごく、悲しそうな顔してる…」
そう言った佐野くんだって、すごく悲しい顔をしてる。
「傷つけたまま死なせてしまったって思うなら、今から謝ればいい」
(今からって…
お母さんはもう、死んじゃったんだよ!)
私は責めるように彼の目を見た。
「確かにもうこの世にはいない。
あるのは墓の中に埋まった骨だけだ。
けど…
それでも聞こえるから」
(どうやって…)
「あんたが聞いて欲しいって、本気で願ったら
絶対聞こえるから。
根拠はって言われても困るけど…
でも俺は確信してる。
櫻田の声は届く、絶対届く」
何故か佐野くんまで泣きそうにしていた。
「お母さんだっていつも言ってくれたんだろ?
ありがとうって、嬉しいって
それなら今もあんたの声、ずっと待ってるんじゃないか?
またあんたの声聞かせてやったら
ありがとうって、嬉しいって
言ってくれるんじゃないの?」
私と彼は同時に一筋の涙をこぼした。
聞いてほしい…
ごめんねって言葉も
ありがとうって言葉も
大好きだったんだって
全部全部声にしたい。
きっとお母さんなら聞いてくれるような気がした。
私は佐野くんに強く笑いかけた。
決意の笑顔だった。
佐野くんは私の頭をくしゃっと撫でて、一緒に笑ってくれた。
それからしばらくふたりで泣き続けた。
