声をくれた君に



「うるさい、黙っててよ!」

私はカバンをドンっと床に勢いよく落とした。

「だいたいあんたはいつもここにいて

保育園に迎えに来るのもお父さんで

小学校の参観日もいつもお父さんで…

なんで私だけみんなとちがうの!」

どうして今更そんなことを掘り返したんだろう。

本当にただの八つ当たりでしかない。

でも一度動き始めた口は止まらなかった。

「そんなんじゃ…

そんなんじゃお母さんがいる意味なんてないよ!

なんのために生きてるのよ!!」

どうしてこんな言葉を知ってしまったんだろう。

知らなければ、こんなこと言ったりしなかったのに。

「ごめんね」

お母さんはたった一言そう言った。

「謝ったって、何も変わんないよ。

今までもこれからも、ずっと私はみんなと違うままなんだよ!」

私は床に落としてあったカバンを思いっきり蹴飛ばした。

「ごめんね」

お母さんはもう一度謝った。

けれど、彼女は私に優しく微笑み続けていた。

(どうしてこんな時まで笑っていられるの?)

当時の私にはわからなかった。

どんなに酷い言葉だって、笑って受け止められるお母さんの強さに、私は気づけなかった。

だから言ったんだ。

「あんたなんか大っ嫌いだ!

いても何の意味もないんだから…

今すぐ私の前から消えていなくなれ!」

ほんの一瞬だけ、私には見えた。

お母さんの悲しそうな顔。

それでも最後は笑って

「ごめんね」って。

でも、声が揺れていた。

きっと涙を堪えてたんだ。

私は気づかないふりをして、病室を飛び出した。

彼女の優しげな笑顔。

涙を堪えて揺れた声。

それが最後だった。


次の日、彼女は本当に消えていなくなった。