「櫻田…」

佐野くんは私のすぐ傍にきた。

「無事でよかった」

いつもの冷静な佐野くんだ。

でもどこか張りつめたような表情をしていた。

しばらく彼は黙っていたが、静かに口を開いた。

「…ごめん」

彼はなぜか私に謝った。

(どうして謝るんだろう…

だって私を助けてくれたのは確か佐野くんで…)

私は小さく首を傾げた。

「助けるの、遅くてごめん」

(そういうことか…

助けてくれただけで十分すぎるのに)

私は首を横に振った。

「おとといのことだけじゃない。

いつも俺は遅かった。

あんたが嫌な思いをした後に何かできないかって考えて、結局大したことできなくて…

ごめん」

”何かできないかって考えて”

それはつまり佐野くんの意思で、私を助けようとしてくれていたってことだ。

(そっか、そうだったんだ。

佐野くんはいつも私を助けようと何か考えてくれてたんだ…)

その事がどうしようもなく嬉しくて、私は佐野くんに笑って見せた。

「ばか、それはだめって言っただろ」

佐野くんはいつか私にしたように、片手で私の両頬を掴んだ。

(どうしていつも笑うと止められるんだろう…)

私は佐野くんの目を見た。

彼も私の目をしっかりと捉えてる。

「これからは、その…

ちゃんと、守るから」

彼はどこか照れくさそうに、けれど力強くそう言った。

私はそんな彼に大きく頷いてみせた。