声をくれた君に



「ゴミ箱あさってんの?

汚ねーな。

ほら、きれいにしてやるよ」

彼が手にもっていたのは、水が入ったバケツだった。

そのバケツがボロボロな教科書の上でひっくり返される。

「よかったな」

教科書のインクの文字はにじみ、もう読むことは不可能だ。

床は水浸し。

「ちゃんと床拭いとけよ」

そう言ってぞうきんを投げつけた。

(もう、だめかもしれない…)

そう思った瞬間、さらに後ろから声がした。

「ばかね、そっちじゃないわよ」

その声に振り向いた瞬間、今度は頭から水をかぶる。

バケツを私の頭上でひっくり返したのは小田さんだった。

「汚いのは教科書じゃなくて櫻田さんのほうでしょ?」

髪の毛から滴る水。

満足そうな小田さんの笑み。

「ちゃんと後始末しておいてね」

そのままバケツを投げ捨て、席に戻っていった。

同時にすぐ近くにある教室のドアから入ってくる担任。

さすがの担任も、この光景に驚いていた。

「ずいぶん派手にやられたもんだな…」

私はその場でただうつむいていた。

「とりあえずタオル持ってくるからその場で待ってろよ。

絶対その場から動くなよ!

他の教師に見つかったら面倒だからな」

呆れた。

こんな時まで自分のことだ。

もう絶望としか言いようがない。

ざわつく教室。

冷たい視線。

感じるのは苛立ちや悔しさだけではない。

はじめて恐怖というものを感じた。