声をくれた君に



放課後、私は上靴から外靴に履き替えていた。

この上靴は確か10足目。

破かれていたり、落書きされていたりで何度も買い換えた。

キリがないことに気付いたのか、それとも単に飽きてしまったのか

最近上靴には特にイタズラされなくなった。

(上履きみたいに買い換えればなんとかなるものは、別に何されてもいいんだけどな)

昼間のことを思い出しそうになって、私は足早に昇降口を出た。

すると、後ろから急に腕をつかまれる。

私は身構えて体を固くした。

「ごめん、驚かせた」

けれどそれは、低く落ち着いた声だった。

見上げると、視界に入るのは佐野くんの顔。

しばらく、お互いがお互いの目を見つめていた。

そして佐野くんは私の腕から手を離し、ポケットに手を突っ込んだ。

取り出したのは棒付きキャンディー。

彼はおもむろに包み紙を開け始めた。

(え、このタイミングで食べる?!)

私はぽかんと口を開けてしまった。

するとその口に、ぐいっとキャンディーが押し込まれる。

(え?!)

いろいろ驚きすぎて、私はそのまま固まってしまった。

「やる」

(……)

私は佐野くんと視線を合わせたまま、目をパチパチとさせる。

「弁当、食べてないだろ」

(ああ、そういうことか)

私は一気に納得した。

「じゃ、また明日」

そう言って佐野くんは、足早に私を通り越して去って行ってしまった。