声をくれた君に



頭の上、首元に感じるなんとも言えない感触。

私はしばらく固まってしまった。

「ごめん、手がすべっちゃった」

クラスの人たちも一瞬静まったような気がした。

でもそれはほんの一瞬のことで、すぐにいつものように参戦し始める。

「うわ、櫻田汚ねー」

「何そのまぬけな姿、笑える」

頭からお弁当をかぶってる人なんて、きっと誰も見たことないはずだ。

さぞかしおもしろい光景だろう。

私はしばらくしてから頭に乗ったお弁当の中身を払いのけ、トイレに向かった。


ハンカチと水でなんとかきれいにする。

制服についた汚れはとれそうになかった。

髪の毛はべとべとして気持ちが悪い。

はじめて泣きそうになった。

(ううん、こんなことで泣いてちゃだめだ)

最後に手を洗っていると、トイレに人が入ってくる。

私は人と顔を合わせないように、下を向いたまま教室に戻った。


席に戻ると、当然お弁当が散らかされたまま。

「汚ねーな、早く掃除しろよ」

「ほら、これやるよ」

顔面に投げつけられる濡れぞうきん。

「顔面キャッチしてる、あはは」

私はそのぞうきんを手に取り、その場にひざをついて床をふき始めた。

(もう何も考えないようにしよう。

これはただの掃除…)

心を無にして…

そう思っていた矢先、背中に重みを感じた。

「ほら、早く掃除してよ。

私が座れないじゃない」

小田さんの足が私の背中に乗せられていた。

(どこの女王様よ…)

私は下からにらみあげそうになったのを必死にこらえた。

彼女がその足をのけたのは、次の授業の先生が入ってくる頃だった。