声をくれた君に



次の日、同じように彼の号令からはじまった。

昨日と違うのは、私が彼に感心をもっていること。

私は無造作に整えられた彼の髪の毛を見上げた。

(なんか、くしゃっとしたくなる…

って何考えてるんだろう)

はじめての発想にほんの少しだけ焦った。


朝のホームルームが終わっても、私は佐野くんのことを眺め続けていた。

彼も立ち上がることなく、座ったままぼーっと窓の外を眺めている。

すると、小田さんがそんな彼に話しかけた。

「佐野くん!

昨日のノート見せてくれない?」

いつも私が聞くのとは違う、2割増しのトーン。

「やだ」

しかし佐野くんは、バサッと断ってしまう。

(ていうかやだって…

ちょっと可愛い…かも)

小田さんが話しかけたのを機に、次々と他の女子たちも集まってくる。

「今日も日直しなきゃだよね!

大変だねー」

「別に」

「良かったら手伝うよ?」

「いい」

すべて3文字以内で返す佐野くんに対して、女子たちはきゃっきゃと騒いで楽しそうだ。

(こんなに素っ気なくされて、どうしてこんなに嬉しそうなんだろう…)

そう思いながらもずっとそのやりとりを見ていた。

そして改めて思った。

(佐野くんってやっぱり人気者なんだ…)