そういえば、彼がみんなと一緒になって私をからかったり笑ったりするところを見たことがない。

別に、彼がクラスのみんなと仲が良くないわけではない。

どちらかといえば、いつもみんなに囲まれているような人気者だ。

佐野くん自身はいつも興味なさそうにしているけど。

背が高くて、顔が整っていて、クールで、勉強もスポーツもできてしまう男女共にモテる典型的なタイプ。

私とは正反対だ。

(クールな性格…

そっか、いじめとかそういうの興味ないんだ)

嫌いを通り越して私に無関心な人。

みんなが佐野くんみたいな人だったらいいのに。

彼は窓の外を見たまま小さくあくびをした。

(猫みたい)

この時私は、ただそんな風に思った。


4時間目からさすがにこりたのか、小田さんは何も言わなくなった。

そして相変わらず佐野くんは黒板を一緒に消してくれる。

猫みたいな彼だから、きっと何かの気まぐれだろう。

それでも、今日1日の心持ちは軽かった。

隣で黒板を消す佐野くんを見上げると、ふいに目が合う。

『ありがとう』

私の唇は自然とそう動いた。

(何してるんだろう、私)

彼はそんな私を見て小さく首をかしげた。

それは口の動きが読み取れなかったからなのか。

それともありがとうの意味が理解できなかったからなのか。

どちらが正解か私にはわからなかったけど

小さく首をかしげる彼がまた猫みたいで、ちょっと笑えた。