「奈々、邪魔よ。寝るなら自分の部屋行きなさい」
「ほーい…」
久しぶりの畳が心地よくて、ゴロゴロしながらアイスをかじっていた私は、背中を掻きながら起き上がる。
掃除機をかける母の邪魔らしい。
ボロボロのハーフパンツに、いつのか分からないTシャツ姿の私を見るなり、母は悲しそうに笑った。
「あんた、年頃の娘の姿じゃないわよ」
「家にいる時くらい、いいじゃんか」
誰に見られるわけじゃないんだから…
誰にも…
「うっ、圭ちゃん?!」
「よっ!久しぶり」
なんだ、お母さんてば来るなら来るって言えばいいのに!
今更悪態をついても仕方がないけれど。
リビングにひょっこり顔を出したのは、幼馴染みの井口 圭太こと、圭ちゃんだ。
「野菜持ってきた…って、お前その格好はないだろ」
「う、うるさい!部屋着を持ってくるの忘れたの」
圭ちゃんは鼻で笑って、私が食べていたアイスを奪った。
「あたしのアイス~…」
「いいじゃん。暫くいるんだろ?暇な時、俺の自慢の娘を見に来いよ」
「行く行く!」
いつも暇だよ、とは言わないでおこう。
圭ちゃんもお父さんかぁ。
私の夏休み、実家でゴロゴロで終わっていくのかな…
「加奈子にも言っとくよ。じゃあな」
「うん、ありがとね」
加奈子さんは、圭ちゃんの奥さん。
社内恋愛の末、去年結婚した。
小柄でおしとやかな可愛い女の子。
私の周りは可愛い女の子が多いこと。
ふと、玄関横の鏡を見て絶句する。
髪の毛ボサボサ。スッピン…
恋をすれば綺麗になるのでしょうか。
そんな自分を見ていられなくて、私は自分の部屋へと階段をかけ上がった。
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