「えらく不機嫌だな」
電卓を弾いている俺を見ると渉は物珍しそうに言った。
「別に」
(不機嫌だってわかっているなら話しかけるなよ)
いつまで経っても空気を読まない渉に眼を飛ばす。
俺は広げていた資料に数字を書き足すと、背もたれに大きく身を預けた。
渉の指摘の通り、俺は猛烈に不機嫌だった。
週が明けても佐藤さんに“お別れ”を言われたことを引きずっていたのだ。
一体、どういうつもりだったのだろうか。
誰かに別れろと脅されたわけでもない。他に男が出来たわけでもない。
自分から離れると言った彼女の主張を俺は絶対に認めるわけにはいかなかった。
呑気にコーヒーを飲んでいる渉に作成途中の資料の束を投げつける。
「あとは、自分でやれよ」
……俺が手伝っていたのは元々渉に振られていた仕事だった。