「鈴木さん」 1階のエレベータホールでエレベーターの到着を待っていると、隣に立っていた女性から声をかけられた。 「今から出社ですか?」 親しげに話しかけてくるぐらいだから、きっと何度か会話したことがあるのだろう。 (……誰だっけ?) 顔は見たことがあるような気がしたが、どうしても名前が思い出せなかった。 焦げ茶色の巻き毛にピンクのルージュを塗った化粧の濃い女性社員なんて、たくさん居すぎて誰が誰だか判別するのは至難の技だ。 きっと早々に頭の中のフォルダから消したに違いない。