『掛川くんってさー、レインのボーカルにそっくりでかっこいいよねー!』
今日の昼休みも、そう話していた友人を思い出す。
レインというアーティストのボーカル。年齢差はあちらが何歳も年上なのだけど、髪型とか細身の筋肉質な体がまるで瓜二つだ。テレビに出ている人に似ているというだけでも、昼休みの話題を独占する人になる。
かくいう私も、そのアーティストのファンだった。だからこそ、“彼”のことは知っている。
「ごめん、こんな格好で。あんまり見ないでもらえると……助かる」
着替えてメイクしたい、切実に。
“彼”とどうこうなろうとの意思はないけど、月前のスッポンはこんな気分になるに決まっている。なんで、比べられてしまう位置にいてしまうんだ。
「いきなりの雨なんだから、仕方がないだろ」
「掛川くんは、傘持ってる……」
「匂いとか湿気とかで、なんか降りそうだなぁって思っただけ」
「天気予報士になれそうだね」
「予報ついでに、後五分ぐらいで雨足弱くなるな」
それは私も予想していた。
雲は厚くない。うっすらとした光が差しているから、通り雨だと分かっていた。
「この雨じゃ、傘さしても意味ないな。雨足弱ったら行くか。春野の家、俺のいるアパートとおんなじ方向にあるから、一緒に帰るぞ」
「一緒にって」
「嫌なら、傘だけ置いて、俺はダッシュするけど?」
「それはダメだって!」
なら、決定と今度は自然に唇を緩ませる“彼”。
なんだか、ペースに乗せられている。
男の子と一緒に帰るだけでもドキドキなのに、話から察すれば相合い傘コース。
帰り道が一緒ーー同じ方面だから、掛川くんが私の家近くにいることは知っていたけど、まさか、こんなことになるなんて。
「今日って、何日だっけ?」
「6月18日だな」
学校の有名人と一緒に帰れた記念日にしておこう、こっそりと。
風がない真下に落下する雨は、まだ続く。
よくよく考えたら、今この状態もかなり接近しているような。


