死が二人を分かつとも


「ごめん、弥代くん。私……」

「俺のこと、嫌いになったか?」

そうじゃないと、首を振った拍子に涙が零れた。

「弥代くんと会えて、嬉しいって思った」


好きな人に、『死んでもらえて良かった』と言っているようなもの。

最低と自覚している。涙の意味は、謝罪と罪悪感。そうして、嬉しさ。

混じり合ったその液体は、弥代くんの指が拭ってくれる。

「何にも覚えてなくて、知らない場所にいて、怖い物いっぱいで、追いかけられて……」

気が抜けて、幼子へと退化したようだった。

頭を撫でてくれる弥代くんは、何も言わずに私の言葉にただただ耳を傾けてくれる。

「そこで、弥代くんのこと思い出して、呼んで、駆けつけてくれた時、すっごく安心した。ごめん、ごめんね、弥代くん」

「そこで謝るなよ」

抱き寄せられ、頭をポンポンと叩かれた。


「あ、ありがとう」

「どういたしまして。報われた」

ホッとしたのは私だけじゃないようだった。顔を見なくても、微笑を浮かべているのが分かる息遣い。

死んだはずなのに、彼の体温は温かいままだ。

身を預けていれば、意識が遠ざかる気分になる。

「斧持って助けにくるなんて、やっさんはヒーローですね!」

「別に。ここ来た時、俺を襲った化け物が持っていたのを奪っただけだ。起きた瞬間に、自衛しなきゃなんないってのは、身を持って知ったし」

「あー。死人さんは、生前持っていた身につけていた物をそのまんま、こっちまで持って来ますからねぇ。地獄(ここ)じゃ、刃物持ってる奴多いっすから。手前なんか、持っている物見て、あーこいつは誰かを殺した後に、また別の誰かに殺されたのかなぁとか、んな想像してます。やっさん襲った奴は、斧持ったまま、山から落ちたんですかね?」

「知らん。というか、『やっさん』って」

「やっさんとちょっとでも仲良くなりたいんで、あだ名で呼びます!手前もあだ名で構いませんよ!ーーつか、名前つけて下さい!」

「寄るな、懐くな。ーーおい、そよ香?」


会話でさえも子守歌に近しい意識。
体を揺さぶられたけど、寝るだけと分かるなり、弥代くんは『おやすみ』と言ってくれた。

睡魔に逆らわずに、瞼を閉じる。
遠くから、雨音が聞こえ始めようとも。