首を横に振る。
沈鬱な空気が漂ったのも、数秒だけ。
背中のコウモリが、口を挟む。
「珍しくないですよ、生前の記憶ないのはけっこーいますから。ショックで忘れたとか何とか。個人差あれど、徐々に思い出しますから大丈夫です!」
弥代くんを警戒してか、半分しか顔を出さない生き物は常に私を慰めてくれているようだ。
変な生き物だけど、見慣れてしまえば小さくて愛らしくも思える。
「そっか、戻るよね」
「戻らなくていい」
間髪入れずに、弥代くんは言う。
「戻らなくて、いいんだ……」
含みある言い方は、弥代くんが何かを知っていると示唆する。
あえて示唆し、私に伝えているのかもしれない。
「私、なんで死んだの?」
唾を呑み込むように恐る恐ると、聞いた。
自分が死んだことさえも実感が湧かないのは、それこそ現実的じゃないのもあるが、私には死んだ時の記憶がない。
過程がなく、結果だけ突きつけられても煮え切らない部分があるんだ。
私と違って、記憶がある弥代くんは、軽く目を逸らした。
それでも、私の質問に答えようと、目を合わせず、口だけは動く。
「事故だ」
誰が聞いても、何かを隠されたと感じる回答。
「弥代くん……」
「頼むから、これ以上聞かないでくれ。他の奴なら簡単だけど、お前に嘘はつきたくない」
私のためを思っての隠し事であるのは、分かった。
詮索する言葉は胸の内に秘めておく。聞けば彼を苦しめることは明白だったから。
事故で、死んだ私。
今はそう思うしかない。
ただーー


