「そよ香を怖がらせた以上に、怖がれよ」
考える頭があったからこそ、理解する。
敵うわけないと弱肉強食を突きつけられ、叫ぶしか脳ない矜持で立ち向かえなかったモノの首が跳ねる。
胴体から分離されても喚くそいつ。
斧の先端を口にねじ込まれていた。
ゆっくりと圧していく最中、彼がはっとしたように私を見上げた。
「そよ香……ごめん」
謝罪と同時に、残骸の口が裂けて潰れる。
そんな陰惨な光景も目に焼き付くが、彼の寂しげな表情からも目が離せなかった。
何が、ごめんなんだろう。
こんな光景を見せてしまったから?でも、それは私が『助けて』と彼を呼んだから。
ーーこうでもしなければ、きっと。
「弥代くんは悪くな……きゃっ」
前のめりになったのがいけなかった。
足が滑る。落ちるっ!
目を瞑ってしまい、開ければ、彼が私の下敷きになっていた。
「うそっ、や、やしろく!」
体を退かそうとする前に、弥代くんの腕が私をぐぃっと引き寄せる。
弥代くんに寝そべるような状態が続く。落下した私を受け止めたせいで、彼の骨とか折れてないかっ、とか色々焦ったのだけど、それすらも確かめさせてくれない彼は、鼻をすすっていた。
「良かった。会えた」
その事実を噛み締めるように、私を抱く彼。
泣いていたのは分かる。だから、私の顔を上げさせまいとする彼の手は、きっと泣き顔を見られたくない意思表示なんだろう。
そよ香、そよ香と、何度も呼ばれた。
私を大切に思ってくれているのは分かる。私も彼が大切だと思えた。なのに、涙が出ない。
思い出が曖昧なせいか。彼と再開したのに、気持ちが追いつかないような。
体が胸元から暑くなってきたとき、んんーと唸る声を聞いた。


