死が二人を分かつとも


「ーーか」

最初は、思い出の再生(一部)かと思った。

「ーーよか」

次に、耳を澄まして確かめる。

「そよ香!」

「弥代くん!」

最後、互いに“ここ”にいると呼び合った。

刹那、人影。
残骸(化け物)の群れに飛び込む、人間。


しまったと思った。
自分よがりで彼をーー弥代くんを呼んでしまったけど、危険地帯に招き入れてしまった。

馬鹿なことだけど、逃げてと喉元まで出かかった。

「ぎいいぃ!」

呑み込んだのは、残骸が断末魔と共に地に伏したせい。

私を見上げていた視線が、全て弥代くんに向く。

「邪魔だ、お前ら」

斧を握り、首がない死体を踏みつける彼を。

残骸を見た恐怖とはまた違うもの。
心の底から冷却されていくかのような怯え。

頭が半分腐っている残骸は彼に立ち向かっていくけど、逆説、襲わなければならない敵(恐怖)だと本能で悟ったも同じ。

事実、彼は残骸の敵だった。
死人を更に殺せる人だった。

斧が振り下ろされる。
振り回すだなんて不格好さがない、標的を狙い、確実に相手を仕留める使用方法。

斧だなんて、よくあんな重いものを自在に操れると思えば、上から見ると彼はその重さすらも利用しているんだと分かった。

腕の力だけでなく、体全体を使って斧を振りかぶる。

止まらない遠心力の流れ。
真円、半円。刃のついた竜巻のように、時には振り子のように相手の位置と数に合わせて対応している。

頭がなくとも動こうとする奴いれば、トドメを刺すに相応しい大振りな落石の如き一撃が決められた。

「な、なんすか、あれ」

コウモリでさえも萎縮してしまう彼の動き。けれども、恐怖ではなく感嘆の声が含まれるようだった。

殺戮の文字がよぎった。
誰も彼に敵わない。動く芝刈り機に自ら進んでいるようなものだ。

「なんだあぁ!お前はあああ!」

やがて、残骸は最後の一体となる。

群れの中で一番、人間らしかったものーー走り追い詰めたあの残骸が最後となったのは。