「弥代(やしろ)くん!」
声に出す。助けてほしいと、“彼”を呼んだ。
残骸の雄叫びに負けないように、ただひたすらに彼の名前を呼んだ。
コウモリが何か言ったみたいだけど、それすらも言葉として耳に入らない。
半ば、泣き叫ぶように。
咳き込んでも、続けた。
けれども、頭の隅では思ってしまう。
無駄なあがきだと。
ここがどこか忘れたか。下を見れば一目瞭然。こんな場所に“彼”がいるわけがないのに。
無駄なあがきは、諦めきれないから続くもの。
現実に向き合わない証拠だけど、出し続けた声は確信していたからだった。
“彼”は、いる。
私のいる場所に、いる。
「……いっ」
頭痛で、声が途切れる。
また叫ぼうとしたけど、声が出ない。
枯れたわけじゃない、喉はまだ痛くなっていない。なのに、舌の奥でせき止められているような。これじゃまるでーー
『俺が、必ず守る』
「っ、弥代くん!」
“彼”の声に後押しされる。
呼んでいいんだ。
信じていいんだ。
“彼”は必ず来てくれる!


