死が二人を分かつとも


「あの化け物も、私みたく死んだ人なの?」

「ええ。もうあれは、“死人の残骸”ですよ。人間だったものです。あんまりにもここに長く居すぎたか、頭がおかしくなるほどの苦痛があったせいかで壊れたーーどっちにしろ、お嬢さんがあれを『化け物』と言っている段階で人間じゃないでしょうよ。あんなのを、手前は『残骸』と呼んでます」

集まってくる残骸。
街灯に集まる蛾を、ふと思い出した。

「残骸は、とことん憂さ晴らしがしたいんすよ。根っからの悪人ですからねぇ、お嬢さんみたいなどこも壊れていない人間らしい人間見ると、めちゃくちゃにしたくなる。死なないから大丈夫とか思わないで下さいよー。痛みはあるんですから、生きたままボロ切れにされる苦痛なんて想像出来ないほど痛いってのは分かるでしょ?」

想像出来ないほど痛いではなく、想像もしたくないほどの痛みに思えた。

苦痛が分からないほどに、自身の体が朽ちても意に介さないほどに、壊れてしまった人たち。

「何だか……」

「可哀想とか思っちゃダメですよ。ここは地獄。苦行を強いられる場なんすから。何よりも、あんな姿になっても、まだなお、お嬢さんを傷つけたがっているんですから」

肩に止まるコウモリ。私を慰める時の定位置。

「お嬢さんがここにいんのは間違い!早くこんなとこ出ましょう!」

出られる。その真意を聞く前に、木の枝に湿った物が当たった。

小さな物だ。それが当たった程度でびくともしないが。

「ひっ」

でろりと枝にへばり付く赤黒い物で、私の心臓は大きく動いた。

下を見れば、走って来た奴が辺りに散らばった自身の肉片を投げている。

右手が壊れているため、左手で。雪合戦でもするかのように、むやみやたらに投げてくる。

それを模倣する残骸も出てきた。投げるものがないとなれば、自分の指をもぎ取って。

「ーー」

枯れることない悲鳴。見てはいけないと、目を閉じた。

幹にしっかりと掴まるも、耳に通る湿った音で体が震えてうっかり落ちそうになる。


「お嬢さん大丈夫ですよ!案外やっこいもんですかーー」

一際大きな音が聞こえたため、目を上げれば、枝に右腕が引っかかっていた。
肩から無理やり引き抜いた物が、宙ぶらりんとなっている。

「や、いやあぁ!」

「落ち着いて下さいって!だ、だだ、大丈夫ですから、あーもー、まずは手前が落ち着けって!」

コウモリも、こうなることは想定外だったのだろう。別の残骸の頭をむしり、ボールのように投げてくる者もいたのだから、ここの安全性はなくなった。

「あいつら、的当て下手くそですから!早々当たるわけありません!むしろ、立てなくなるほどに体をボールに使ってくれれば」

「でも、でもっ」

いつ当たるか分かったものじゃない。
半狂乱になった私を、コウモリはひたすらに宥める。

この子がいなかったら、動揺で確実に手を滑らし落ちていただろう。

何とか気を保てているのは、味方がいたから。

一人じゃないことがこんなに頼もしいだなんて。