死が二人を分かつとも


「ぃひひひひひ!」

棒を振り回し、哄笑する。

ーー私に、向かって。

「ーー」

上げた悲鳴。自身の声で鼓膜が破けてしまいそうなほどに。

腰から力が抜けそうになったのに、寸でのところで背中を押された。

「行きます逃げますよ!」

ボールでも背中に押し当てられているような些細な後押し。それでも、今すべきことを行動に移すには十分だった。

逃げる。
先ほどの走りとは比べものにならないほど必死に。

限界を超えた自覚があるのに、まだ足りない。

もっと遠くに逃げなければ。でも、いったいーーどこが安全だと言うのか。

「まずっ、こっちにも!」

コウモリの言いたいことは、目で捉えている。

前方に、人間。

今度は足があって、普通の人型。サラリーマン風の男性の後ろ姿を見て。

「い……い、た……」

青白い表情も“同時に見た”。

「ひっ」

顔が逆さまになっている。
首が千切れて、背中に垂れている。

動く度にユラユラと。ガンガンと後頭部を背中に打ち付けながら。

「ヒャヒャヒャヒャ!」

笑っている。

「お嬢さん、こっち!」

不快感に酔っている間もなく、声する方に足を向けた。

羽ばたく白い翼も必死に動き、されども、私がきちんとついて来ているか確認しながら飛んでいる。

「あーもー、どーっしましょうねぇ。ここら辺は“残骸”うようよいるだろうし、逃げようとしても出くわすだろうし、ああー、言ってるそばからまた!」

見たくもないものが、ぽつぽつと現れる。


どれもがどれも、人の形をしているのに、どこか欠落している。

眼球がないモノ、腹部に穴が空いたモノ、あげく上半身だけのモノは腹這いのまま体を引きずりこちらに来る。

「やだ、来ないで!」

そんな悲鳴をあざ笑うのは、頭上から。
木の枝に突き刺さる頭だけのモノが大口を開けている。

「おまえも、ごうな゛んだよ!ヒャヒャヒャヒャ!」

地獄の真の姿を見た。
死んだのにまだ生きている。

どんなに苦しもうが、狂ってしまおうが、生きてしまう。

私も、私もあんなになって、苦痛も恐怖も分からないほど、おかしく、面白おかしくなるほど狂ってしまーー