「そよ香!」
「っ……!」
階下から聞こえた断末魔に耳を塞ぐ前、名前を呼ばれた。
いつもそう、だ。
彼は、必ず私のそばにいてくれる。
どんなに離れていても、例え、逃げようとも。
「どうしてだ!」
声帯がはちきれんばかりの叫びが、鼓膜を揺るがす。
「何がいけない!?あいつらは、お前にそれだけのことをしてきたんだ!お前の中に刃を突き立てて笑うような奴らなんだから、体に傷をつけてもいいだろう!殺したっていいんだ!でないと、お前が潰されていたに決まっている!
無理するな、我慢するな!やり返したっていい!周りが許さなくても、俺は許せるし、手伝う!法律が怖いなら、俺が全部の罪を被ってもいい!どんなことがあっても、お前が俺を好きでいてくれるなら平気なんだ!
恋人だろう、俺たち!結婚しようって誓えるほど、生涯を共にする約束をした仲じゃないか……!」
彼の言葉こそが、刃に思えた。
耳を塞いでも、聞こえてしまう。
ただひたすらに、愛しているからを繰り返す彼。なおも私が、この場所から動かないことに冷静になったか、声のトーンが落ちる。
「分からないよ、そよ香……。俺、間違ったことしたのか?お前に笑ってほしくて、お前のそばにいたくて、今まで俺、“色々としてきたのに”」
手から力が抜ける。
その様子を彼は転機と見たか、話を続けた。
「ずっとずっと、お前が好きだった。初めて会った時から、俺はお前のことを思い続けてきたんだ。お前がどうすれば喜ぶか、何をしたら好かれるか、嫌われないか。ずっと思ってーー見てきたんだ」
「見て、きた……?」
『ずっとずっと、お前が好きだった』
あの時の告白と同じ。あの時まで、彼とまったく接点がなかった私にどうして彼が?と思ってはいた。
聞けずにいたから、廊下ですれ違った時に良いと思ってくれたのかと、勝手に想像していたけど。
今の言い方は、まるで、“もっと前から知っていたかのような”ーー


