私の行動が理解不能と、今度は彼が立ち竦んでいた。
なんで?、と子供が問うかのような様を見続けていればーー横槍が入った。
「掛川あああぁっ!」
椅子が、弥代くんを的に飛んできた。
短い苦悶。倒れる彼。そこに馬乗りになったのはーー
「調子に乗ってんじゃねえよ、てめえはぁ!」
血走った目をした岸谷くんだった。
たがが外れたように、岸谷くんの拳が何度も振り下ろされる。
「ちっ、先にそよ香を傷つけたのは、そっちだろうが!」
応戦する右の拳。
顎に入り、岸谷くんは床に伏した。
「ぐっ、つぅ……!」
起き上がる彼。苦痛を浮かべ、左腕を押さえながら立ち上がる。
脂汗が酷い。息も荒い。
左腕が折れたとは、ぴくりともしない指先から見受けられた。
岸谷くんのように床に伏してもいい。痛いと訴えてもいいのに。
「そよ香、なんでだ?」
彼の頭は、私のことでしか埋まっていない。
痛覚を無視できるほど、彼が欲しているのは私だった。
「どうして、そんな目で俺を見ている?」
鏡なしでも、自分の表情は分かっている。
怖がっているどころじゃない、彼に怯えていた。
「私は……こんなこと、望んでなんか……!」
いないのに。
どうして、こんなことになったのか。
「そよ香っ、どこに……!」
現実逃避。見たくないことから逃げ出す。
生徒の荒波は階段付近で留まっていた。
人だかりをさけ、別の階段からみんなと真逆の上へと駆け上がる。


