死が二人を分かつとも


「なんだ、死んで(大したこと)ないのか」

残念そうに、言うのだった。

誰もが思考停止をしただろう。
あまりにも、不可解でーー何を言っているんだと。

「腕が少し切れたぐらいで泣くなよ、鬱陶しい。そよ香がお前たちから受けた苦痛は、こんなものじゃないってのに」

想像を絶する者のやることを、止められなかった。

箸を掴めば物を食べる。ペンを取れば字を書く。

そういった、ごくごく自然の流れで、手に取ったガラスの破片の用途をーー彼は、真奈の喉に突き立てることに使用した。

現実味が湧かないことを目の当たりにすれば、悲鳴も途絶える。

あまりにも、“馬鹿げていて”。

「うそ、だろ……」

現実逃避をしてしまうんだ。

「そよ香は優しいから、加減したんだな。俺も手伝うよ。ーーとりあえず、このクラスの奴、全員からでいいよな」

近場にいた男子生徒が殴られた。

「俺がこいつら動かなくするから、そよ香がとどめを刺せばいい。今までそよ香は苦しめられて来たんだ。酷い話だよな。誰が誰と付き合おうが、当人同士の勝手だってのに。

毎日、泣くお前を見て、どれだけこいつらを憎んだことか。ーーでも、そよ香がそれを望んでないから、俺もただ耐えるしかなかった」

女子生徒まで躊躇いなく彼は拳を振るった。

「けど、我慢しなくていいんだな。裁かれるとか許されないとか、人として異常だと言われようが、こうして、人(今までの自分)を捨ててまでも、お前はあいつを殺したがった……!だよな、俺たちの仲を引き裂こうとする奴らの一人だからな!嬉しいよ、そよ香!お前も俺と同じ気持ちなんだってーー人を殺してでも、愛し合いたいんだろうっ!」

ようやっと、生徒たちが逃げ出す。
我先にと、他の生徒を押し退いて、踏みつけてでも。

「そよ香も、ほら……!理不尽なことばかりされて、憎んでいたんだろう?ただ付き合っているだけなのに、非難されて、あげく、無理矢理に別れさせようとする奴らもいて!そんなことを言う奴らの舌抜きたくなるよな!

今まで溜めていたものを発散しよう。じゃないと、そよ香が酷いままだ。だから、さぁ!」

血がついたガラス片が手渡された。

とっさに捨てるも、手は血で汚染されてしまった。

「そよ香、なんで?」