「はぁ、間に合った。マジ毎日早く出てるのにギリギリってなんなんだよ」
…ねぇ、なんでバスに乗っても手、繋いだままなの?
「あぁ、あちぃ、汗かいた。タオル…ってまた手繋いでたのかよ。マジかよ、俺。癖じゃねぇんだからよぉ…」
「ほんと、あんたの手汗めっちゃ酷いからね。こっちの身にもなってほしいわ」
「んだよ、さっきも言ったけど嫌だったら言えってーの」
それが嫌じゃないから言えないんだわバカ。
本当、何にもわかってない。鈍感野郎。バカ。バカ。でも、そんなバカが好きな私は大バカ者だ。
「…あっ……酔った」
そうやって席に座るおばさんが言えば、
「もっと丁寧に運転しろよ。てか、前のほうの席の奴、誰か席代われよ。ここの席は空けとくから、どっちにしろ座れるようにしてやるから誰か交代してやれよ」
なんて。一見不良ぽくて怖くて。
でも、私は知ってるの。その見た目とは違って本当は小さいころに見た戦隊ものに本気で憧れてて、今でも純粋にそれだけを追ってること。
中学生のころそれをバカにされて、近くのあの公園の木の下で一人泣いてたこと。そこから舐められない様に、バカにされない様にこんな格好するようになったんだってこと。
全部、全部、私は知ってるよ。
「おい、美樹、お前おばさんのそばにいてやれ。俺は前に座ってるやつに頭下げてお願いしてくる」
……こんなことがすぐにできる。こんなとこ、昔から憧れてて、昔から好きだったよ?
