その勇者がいると言われているのが隣の国、サハルである。
サハルに向かう道中、休憩するために少し止まった。

そこで今にも死にそうな薄い生命反応を察知したのだ。

普段だったら気にも止めないが、それがほんの数メートル先だったので興味本意で見に行ったのだ。


もしかしたら魔物の赤ん坊かもしれないから。


草をどかし見つけたのは魔物ではなく、小さな獣だった。


「群からはぐれたか。」


狼のような姿をした灰色の獣
所々血がでている。


俺の声に反応したのかのっそりと顔をこちらに向けた。

それを無言で見下ろしていると小さく唸った

今にも死にそうな唸り声、なのにも関わらず俺を睨み付けるその強い視線に興味を引かれた


「…そういう目、抉り取りたくなるよな」

可愛すぎて。


俺の言葉を理解したのか明らかに恐怖が見えた。

ふぅん、頭はいいのか…


「いっそ、痛みも感じないように一瞬で消してやるか…」

せめてもの優しさだ。

けれどそう言えば最後の力を振り絞るように、獣は吠えた。

まるで反抗するように。


「ふっ…。そうか。」


少し回復魔法をかけてやる。

こいつの首に見えた印は狼人間にのみ現れる生まれつきの紋章

少し回復魔法をかければ人間型にもなれるはず。

回復魔法をかけ、俺は話しかけた

「死にたいか?」

人間の姿に戻っていく人狼
人間の姿になったほうが楽だというのも大きいだろう

人間の姿になった人狼にもう一度聞いた。


「死にたいか?」

「…わ、たしはまだ生きる。」


小さな声でもはっきりといったそいつに内心笑った。

生きる、か。

警戒したように見てくる人狼に治癒魔法をかけ、俺は馬車に戻った