「次男はどうだ?」
「駄目でしょう。
病気もほとんどしていない。
力が目覚める兆候もありません」
「長男は覚醒したのだろ?」
「ええ。
だがもう、そんなに長くないかと…」
「まったく。
力がある方は短命で、力を持たない能無しが長く生きるとは…」

何の話しをしているのか。

「次男は、タケシと言ったか。
もうそろそろ十八になるのだろう?
適当に結婚させて、早いところ子どもを作らせろ」
「ええ。
力を持たない者の子どもが力を持つ場合もあるようですし…」

次男の武と要ったら俺のことではないか。

何の話しだ。

「長男が死ぬまでには、力のある子どもが欲しいものだ」

そっと襖の隙間から中を覗く。

父の背中が見えた。

もう一人の声は、当主だ。

「一族の力は衰退し、強い力を持った者は短命だ。
私もそれほど力が強くはない。
この年まで生きてこられたのはそのせいだ。
そろそろ先が分からなくなってきた」
「何をおっしゃいます。
その力でこれほど長命なのは、天が認めたからでしょう」
「…死ぬ前に次の当主の顔は見ておきたいものだ」
「……」
「早いところ次男に子どもを作るように」
「分かりました」

立ち上がる気配。

急いで物陰に隠れる。

そしてゆっくりと先ほどの話しを反芻する。

兄である猛は、力を持っていた。

しかし、子どもの時から病がちで、まともに部屋から出られた所を見たことがない。

兄は、俺を愛してくれた。

父と母とは対照的に…。

だから、俺も兄を愛した。

儚げな印象の兄は、色々な書物を読み、聞かせてくれた。

一族の言う力とは何なのか。

なぜ、兄が病弱になってしまうのか。

色んな事を教えてくれた。

『一族は、血族間での婚姻を続け過ぎたんだ。
力を重んじるあまり、人の命を無視するようになった。
もう力を支える身体を保てないんだよ。
だから、力を持った者は短命になる』

一族の力を守る為に、愛する兄は苦しめられているのだ。

腹が立った。

力を持っている兄に対しても表情を変えない父と母。

兄や俺という息子ではなく、力の有無しか見ていないのだ。

『お前は将来何になりたいんだい?』