‡〜新たな居場所〜‡

「退院できるんだって?」
「ああ。
世話をかけた…すまない」

数日を経て、シンは退院の日を迎えた。

「これ、返すね」

これまで持ち歩いていた小刀を差し出す。

「でも、これは…」
「持ってて。
この小刀は、シンを主として認めてる。
これから先も、シンが死ぬまで共にあるべき物だから」
「…分かった」

シンは、しっかりと受け取ると、それでも一瞬躊躇う素振りを見せ、コートの内ポケットに入れた。

「これからどうするの?」
「どこか住める場所を探す…つもりだ」

一族の者に、命令を実行できなかったことで折檻を受けたのだ、もう戻れないだろう。

「そんじゃ、わしの助手せんか?
住み込みで」

突然現れた永久先生は、まるでお茶にでも誘うように言った。

「っ…そんなこと俺にできますか?」
「小さな診療所だが、女の手だけじゃできんこともある。
わし一人でも、もうどうにもならんしな。
わしも年じゃからの~」
「っお願いしますッ。
何でもしますからっ」
「おう。
じゃぁ、よろしくな」

あっさりと決まった住み込み先に驚きつつも、一番確かな場所であることに安心した。

「よかったね」
「ああ」
「そんじゃまぁ、改めてお前さんの名前を教えてもらおうかのう。
わしは、永久清十郎じゃ。
よろしくな」
「高階秦です。
よろしくお願いします」
「よっし。
秦君。
ちょいと散歩してこい。
軽い準備運動じゃ。
美南ちゃんを送るついでにな」
「はいっ」