「…急にどうしたの?何かあったの?」


日向がお母さんの顔を覗き込むと、お母さんと聡美さんは2人で顔を曇らせた。





「…この間……私の家で火事があったでしょう…?」


先に口を開いたのはお母さんで、少しためらいながら話始めた。

まさか、火事ことを言われるとは思っていなかった私…

きっと私以外のみんなも、そう思ったはず。




「火事があったって連絡もらった時…初めて心臓が止まりそうだったの。あなたたちに何かあったんじゃないかって、一瞬でも思った瞬間…生きた心地がしなかったわ…」


お母さん…


時々手元を見たり、私たちを見たりしながら話すお母さんの目は真剣だった。





「あなたたちの年頃って…親なんて煙たいだけの存在だと思ってたの。私がそうだったから…だから私は東京に行って、あなたたちだけで生活させてたわ。もちろん自分の仕事も理由のひとつだけど…それが皆にとって一番いいと思ったから…でもあの火事があって・・・その考えが少し変わったのよね」


お母さんと聡美さんは顔を見合わせた。そしてお母さんは、また口を開く。





「やっぱり家族は側にいないとダメなのよ
。離れてていいこともあるけど…取り返しのつかないことがあったら、一生後悔するわ」

「…私も多香子ちゃんと同意見よ。やっぱり離れて暮らすのは心配なのよ」


お母さんたちの言葉に、私たち子供は黙り込んでしまった。




「ごめんね。あなたたちを振り回す形になっちゃうけど、許してね」

「私も多香子ちゃんも仕事があるから、この街に住み続けることは出来ないの。だから東京とパリにそれぞれ暮らしましょう」

「それでいいかしら?」


ニコッと微笑むお母さん。

私はその笑顔に、腹の底からムカついた…


そして私は勢い良く立ち上がり、お母さんをキッと睨んだ…

勢いが良すぎて、椅子が床に倒れた。





「勝手なこと…言わないでよ…」

「お姉ちゃん…」


怒りで震える私を、隣にいる日向が止めに入る。




「どこまで勝手なの!?散々好き勝手やってきたくせに、火事があったからって今度一緒に住もうって…そんなのないよ!自分勝手にも程がある!お母さんは私たちのこと考えてるようで、結局いつも自分のことだけじゃん!私には今の生活が…あるのに………」


目からポタポタと涙がこぼれ、喉の奥が潰れるくらい痛くなった…





お母さんと離れてて、寂しいとか…思わなかったわけじゃない。

話を聞いて欲しいとか、いなきゃ困ったことは確かにあるの…

だから、一緒にまた暮らすこともいいとは思うけど…でも…


それ以上に…

今は悠と一緒にいたい…


初めて好きになった人と、やっと付き合えたのに…

キスしたり、話したり…触れたり

お互い名前も呼びあってるのに…



離れたくないよ…





絶対に嫌だ!












「お姉ちゃんっ!」