クールな彼と放課後の恋

「気を付けろよ」

「うん…ごめん」


稲瀬と指が絡まり、それは手を添えていふんでも握られているんでもなく…明らかに繋いでいる感覚。

しかも、その手を離す様子はない。



今日はどうしたんだろ…

なんか、稲瀬がすごく近く感じる…



恥ずかしくて俯きながら、稲瀬の手の温もりを噛み締める。


後ろからは、大音量の曲が聴こえてくる…

その中で私は、稲瀬と手を繋いでる…

このまま、時間が止まればいいのに…


そう願いながら、そっと顔を上げると…そこには優しい顔をした稲瀬が、私を見下ろしていた。

浴衣姿のかっこいい稲瀬に、釘付けになり目が離せなくなってしまった…




「…砂糖ついてる」

「え、うそ…」

「動かないで」

「…………」


チュロスを持ちながら、親指で私の唇についた砂糖を、なぞるようにとってくれる稲瀬。



もう死んでもいい。


本気でそう思った…





「………なぁ」



ビクッ


すると、稲瀬の後ろから永井がこっちを覗き込む。



やば!


私はとっさに、稲瀬から離れるような姿勢になった。





「…お前らさ・・・もうさっさと付き合ってくんない?見てるとイライラすんだけど」



なっ…




な、なに言ってんのこいつ!!!!?






稲瀬の前で…

しかも、イライラするって何!!?




「あれ…?俺はお前に気使って、ずっと控えめにしてきたんだけど…?」


稲瀬は永井に、きょとんとして言う。



「な、なに言ってんだよお前!」

「とぼけんなよ、バレバレだし」

「違げーよ!いいんだよ、俺のことはっ」



???


二人の会話がよくわからない。




「そ。認めてくれんなら、俺は前進するわ」

「どーぞ」




稲瀬は私を真顔で見下ろした。そして…









「っ!」




私にそっとキスをする。




その数秒後…

かかっていた曲が止まり、またその数秒後…







「「おおおお!♥」」



今度は周りから、そんな声が聞こえてくる。

稲瀬が私に唇を離し、周りに目をやると…




「おおおお!♥」

「大胆!」

「熱いね~」


教室にいた生徒全員が、私と稲瀬のことをニヤニヤとした顔で見ていた。しかも…




「ひ、陽葵…♡」



振り返ると、トイレから戻ってきた香穂の姿も…



もしかして…

この教室にいた全員に、今のキス見られた!!?