「こ、興奮てのは変な意味じゃないから!火事に対しての興奮で…」

「わかってるよ」


ぷっと笑う稲瀬。



稲瀬の家にいるってだけで、いつもよりも倍は緊張する…

“興奮”の意味も、今は違う意味を想像してしまう。


なんでだろう…

いつもひとつ屋根の下に住んでるのに、なんでこんなに違うの?



とりあえず、話を変えよう!




「か、火事なんて…当たり前だけど初めて経験したよ…やっぱりすごい怖いものなんだね」


あんまり変わってないけど、興奮というフレーズさえ出さなきゃ大丈夫だろう(笑)




「…まあな。お前が風呂入った瞬間、近所の人が家のドア叩いてきて、火事だって知らせてくれたんだよ」

「そうだったの…全然気づかなかった」


うちのバスルームって、リビングの話声とかあんまり聞こえてこないんだよね。

でも不思議と、お風呂の中に入ると聞こえてくるんだよなぁ…




「…火事に気づいたのが、私がお風呂入ったあとじゃなくて良かったよ」


裸だったら、逃げ遅れてたかもだもん。

そう考えると、本当に怖くなる…





「まあ俺は、お前がたとえ素っ裸でも抱えて外に連れ出してたけどな」

「…っ!」


す、素っ裸って・・・・・

何言ってんの…





「いや真面目に。恥ずかしいとかよりも、命の方が大事だろ」

「そそ、そうだよね…」


興奮とかよりも、もっとドキドキする話になっちゃったよ…


でも気にしない!

これは真剣な話なんだから。





「お前が助かって良かった…」

「・・・・」


テレビに目を向けながら、稲瀬は肩の力を抜いたように言った。

その表情は嘘をついているんでも、ふざけてるのでもなくて…真剣そのものだった。



稲瀬に申し訳なく思った。

ここまで心配してくれてたのに、違う方向のことばかり考えて…





「ありがとう…」


私はポツリと言った。

稲瀬は何も言わなかったけど、無視したわけではないことはわかった。



家は火事になっちゃったけど、まだ稲瀬との繋がりは終わってない。

こうやって、稲瀬の家にいるんだから…


それが運命なのか…

それとも腐れ縁なのか…


まだわかんないけど。


いや、そんなことはなんだっていいの。



ただ、稲瀬のそばにいたい。

大好きだから…